最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)364号 判決 1961年12月08日
主文
原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人中村喜一の上告理由第四点について。
原判決は、本件上告人の損害賠償債務の存否に関する事実関係については第一審判決とその判断を同じくすると言つて、右判決理由の一部を引用しており、これによれば、被上告人が訴外和田寛食料工業株式会社青森工場、訴外浜通農村工業農業協同組合連合会大浦工場にそれぞれ保管中の大豆原油、同特製油の引渡を求めたこと、大豆原油については右青森工場保管中の品物が粗悪であつたので、その引渡を拒んだこと、大豆特製油については右大浦工場には被上告人の落札当時から現品がなく、引渡を求めた当時には引渡を得られなかつたこと、しかし、その後右訴外会社は同社が北海道及び会津若松で入手した大豆原油を前記保管にかかるものとして昭和二六年三月五日頃被上告人に引き渡したこと、右連合会も他から入手した大豆特製油を同年四月一六日頃被上告人に引き渡したことが、それぞれ確定されている。
そして、原審は、本件履行遅滞を原因とする損害賠償額を算出するに当り、本来の履行期における市場価格と本件売買契約における買入価格との差額を以て被上告人の転売により利得しうべかりし額であり、売主もこれを予見し又は予見しうべかりしものであるから、右差額に相当する損害が買主たる被上告人に生じたものであるとしている。しかし履行不能の場合あるいは履行遅滞により解除された場合のように、結局売買目的物の引渡がなされないままに終つた場合と異なり、履行遅滞後に引渡がなされ、この遅滞に対する損害が問題となる場合には、この遅れてなされた給付を無視すべきものではない。遅滞中に市価が低落し、買入価格との差額すなわち転売利益が減少した場合には、履行が遅れたために減少した転売利益額が遅滞による損害額となるべきものであり、特段の事情のない限り、結局履行期と引渡時との市価の差額に帰する。
本件では、前示のように、遅滞後の目的物引渡が確定されているのであるから、原審はその引渡時における市価を審理して、その履行期における市価との差額を算出して損害額となすべきであつたにかかわらず、これを誤つたものであつて、所論はこの点において理由ありと言わざるを得ない。
よつて、その余の論点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、なお右の点について審理の必要があるから、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)